新型コロナウイルスで騒いでいるのはほぼ日本だけ、日常生活は2019年以前に戻せず、いまだに病院や老人施設のマスク着用の全面自由化がなかなかできないでいますが、そんなタイミングで、次のようなレポートがScientific Reportsに発表されたので紹介します。
題して“Three years of COVID-19-related school restrictions and mental health of children and adolescents in Japan”、「日本における、COVID19に関連する学校規制の3年と児童生徒のメンタルヘルス」とでもしましょうか。著者は、東京大学・京都大学・一橋大学の研究者によるものです。
詳しくは原文か機械翻訳で読んでいただくのが一番いいので、ここは個人的に印象に残ったことを。
まず注意を惹くのは、他国がコロナ規制を緩める中、日本は規制を維持し、それと同時に学校の「厳しい(strict)」感染症対策も続いたという指摘です。日本の場合、幸い休校期間は短かく、勉強を続けることはできましたが、マスクの着用や黙食、遠足や修学旅行、学校行事などの中止といった「対策」は続けられてしまいました。
これは昨年行った明和政子先生の講演会でも、先生がご指摘のところだったと記憶します。世界比較では日本の子供たちの試験の成績が良かったと文部科学省は言っているが、それは当たり前、そうではなくてもっと別の面の問題をみなければならないのではないか、というお話がありました。
そこで、学校の規制・対策がどのように子供たちに影響を与えたのかを探るのがこのレポートの趣旨です。
アンケートに答えたのは、小6、中3、高3の児童生徒あわせて1795人。もちろん、コロナ前より結果は悪くなっているわけですが、問題は何がどう影響を与えたのかです。
データを見ていて印象に残ったのは、
・感染症対策に低い評価を与えている子(つまり、私に言わせれば、当たり前の合理的な思考ができる子たち)により強くうつ症状が生じている
・小中高別でいえば、うつ症状が出ているのは、中学生で23.5%、高校生で20.1%、小学生で13.9%
・遠足や学校行事の中止による友達を作る機会の喪失は大きかった
・遠足の中止によって、女の子と部活に参加していない子供にうつ症状の傾向が強くでた。他方で運動会などの学校行事の中止は男の子や部活をしている子供たちに影響が強かった。
・黙食が強く影響を与えたのは小学生
・規制・対策に低い評価を与えている子(つまり、「まともな子」)のうち、男の子、部活に参加していない子、中学生に強い影響を与えたらしく、うつ症状がみられる。
ただ他方で、
・部活でうつ症状を回避していたらしい(ここはぜひ、体育会系と文化系の部活での違いも調べてほしかった)
ということも大変に興味深く感じました。地元の少年野球チームで野球をしている子供なんかも、感染症対策のおかしさを理解するのは早くて、マスクもすんなり外してくれるようになったりしたことを連想します。
データを眺めながら、子供たちがどれほど遠足や学校行事を楽しみにしているかを実感し、自分が子供の時を思い出して、非常に心に残りました。
著者は、これまでの研究では、子供と学校はCOVID-19の感染においては限定的な役割しか果たしてなかったらしいことが示されているとして、コロナ前の生活スタイルに子供たちが速やかに戻れるように議論を進めることが日本社会にとって望ましく、将来のパンデミックの際には学校の感染症対策の、倫理面や効果に関して、学際的に検証をすることが重要だ、としています。
私も全く同感です。私流に言い直すと、子供や未成年はたいした根拠もなく「悪者」、学校は「感染源」扱いされたため、先生たちは無用の対策に奔走させられたのではないか、そしてその結果、無駄に子供たちの心を傷つけてしまった、その反省を絶対にしなければならない、ということになるでしょう。
もちろん、このレポートひとつだけでは確かなことは何も言えません。調査対象となった子供たちの人数も多いとは言えず、断言することは何もできません。
しかし、大きな示唆を与えるものではないでしょうか。
「コロナ禍」では、子を持つ親御さんなどから、「厳しい環境の中でも、子供たちは楽しく元気にやっている」などという声も聞こえてきたところでしたが、これがいかに欺瞞と偽善に満ちたものだったかと、改めて怒りを覚えます。
著者は、学校の感染症対策が子供たちに与えた精神的な影響について長期調査が必要だとしてレポートを締めくくっています。ぜひとも調査を続け、「コロナ禍」とは何だったのか、その一面に疑問を投げかけ、問題点を明らかにしていただきたいと切に願います。